中東戦争全史
- 作者: 山崎雅弘
- 出版社/メーカー: 学習研究社
- 発売日: 2001/09
- メディア: 文庫
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少し前にパレスチナ関係でIDFを語るスレを覗いていたら,入門用にはこれがいいよと書いてあったので読んでみた.なんか,言っては悪いが下手な小説よりも面白い.
特に,第1次中東戦争が終結する3章辺りまでがほんとひどくて,全アラブvsイスラエルだし,その時はアメリカが全面バックアップという形でもなく,国連もときどき停戦をかけてくれるだけで別に何かしてくれるわけでもなく.なんでこれで負けるのという開始状況なのに,アラブ側が無能すぎて次々と敗退を繰り返す.飛行機がちょっと効果のない爆撃をしただけで,戦意を喪失して撤退するとかどこの平家?さらに,友軍が苦戦しているのに相手国への思惑から支援しなくて,みすみす勝ちを逃すとか.無能を象徴する出来事には事欠かない.
結局,イスラエルはもちろん,列強各国もアラブの王族もみんなアラブの国民のことを考えていない.だから,ユダヤ人の浸透を許したわけだし,パレスチナ人という民族を出現させる羽目になった.
たぶん,どのアラブ人も普通に歴史を読めばイスラエル人に怒りが湧く以上に自分の国の政治体制に怒りが湧いてくるんじゃないかと思う.あまりの悔しさに.
それが,第4章でナセルが出てきてすごい勢いで希望が持てるようになる.これで,アラブもやっとイスラエルに対抗できると.でも,そのナセルが第3次中東戦争で老害を晒すのを見るにつけて,英雄を求めた国の顛末に絶望する.「ナセルが死んでも,一人一人がナセルになればいい」なんて,簡単にいってくれるけど結局出来なかった.
で,さらにあとにいくにつれてぐだぐだになる.アラブ人の戦争の弱さは筋金入り(ここら辺は,売ってくれる兵器がしょぼいのを見抜けないというか,自分自身の軍隊をどうするのかというグランドデザインがかけているために結局ダメというか).第4次中東戦争なんか象徴的で,初戦でイスラエルをこてんぱんにしたとしても,機動力の無いエジプトは結局シナイ半島一つ取り返せない.逆にイスラエルにスエズを逆渡河される始末.他の戦線も同様.
それに対して,イスラエルの戦術的勝利の積み重ねで戦略的勝利を得ようとする体質も,変わらない.国の最初の時期においてはあまりにも不利すぎるゆえに戦術的な賭けが必要な機会が多くて,それがことごとくあたった結果国が出来ているという成功体験があるからある程度は仕方がない.でも,それが必要ないはずの規模の国になったとしてもそれを続けていった結果あつれきを増やし続けるという不幸はたまらない.
あと最後に,カチューシャや手製のロケットはアラブの対イスラエルの伝統芸であって,別に分離壁が出来てからの苦渋の作戦なんかではないという事実はもっと広まってもいいと思う.